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佐賀地方裁判所 平成元年(行ウ)3号 判決 1993年1月22日

佐賀市兵庫町大字瓦町六一〇番地一

原告

本告正行

右訴訟代理人弁護士

河西龍太郎

本多俊之

中村健一

佐賀市堀川町一番五号

被告

佐賀税務署長

右指定代理人

齋藤博志

白濱孝英

新垣栄八郎

佐藤實

井芹知寛

樋口貞文

内藤幸義

荒津恵次

福田寛之

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六三年二月一〇日付けでした原告の昭和五九年分、同六〇年分及び同六一年分の各所得税の各更正及び各過少申告加算税賦課決定(ただし、昭和六〇年分及び同六一年分については、いずれも異議決定及び審査裁決により一部取り消された後のもの。)をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告はすっぽん養殖業を営む者であるが、原告の昭和五九年分ないし同六一年分(以下、「本件係争各年分」という。)の所得税の各確定申告、これらに対し被告がした各更正(以下、「本件各更正」という。)及び各過少申告加算税賦課決定(以下、「本件各決定」といい、本件各更正と併せて「本件各処分」ともいう。)、原告がした異議申立て及び審査請求、並びに、これらに対する異議決定及び審査裁決の経緯は、別表1ないし3記載のとおりである。

2  しかしながら、本件各処分(ただし、昭和六〇年分及び同六一年分については、いずれも異議決定及び審査裁決により一部取り消された後のもの。以下、同じ。)には、原告の本件係争各年分の所得を過大に認定した違法がある。

3  よって、原告は、被告に対し、本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(本件各処分等の経緯)は認める。

2  請求原因2(本件各処分の違法事由)は争う。

三  被告の主張

1  原告の本件係争各年分の事業所得の金額及びその算定根拠は、別表4記載のとおりである。

2  収入金額について

被告が認定した原告の本件係争各年分の収入金額の明細は別表5記載のとおりである。このうち、訴外今田寿弘(以下、単に「今田」という。)に対する売上金額については、原告の取引銀行である佐賀相互銀行(平成元年四月一日付けで佐賀共栄銀行に名称変更。)佐賀東支店及び西日本銀行佐賀支店における原告名義の普通預金口座の入金状況を調査して把握したものであり、その明細は別表6記載のとおりである。

3  所得率について

(一) 原告は、本件係争各年分の所得税確定申告書をそれぞれ法定申告期限までに被告に提出したが、右各確定申告書には、事業所得金額の計算の根拠となった「収入金額」欄及び「必要経費」欄の記載がなかった。原告は、本件係争各年分の所得税の調査において、被告所部の係官の再三の要請にもかかわらず、右確定申告に記載した事業所得金額が正当であることの具体的説明をせず、その算定に必要な帳簿書類を何ら指示しなかった。

そのため、被告は、原告の本件係争各年分の事業所得を、実額に基づく収支計算による方法で算定することができず、やむを得ず、推計による計算に基づき算定した。

(二) 被告は、右推計に当たり、同業者の所得率の平均値を適用した。

推計の資料として抽出した同業者は、所得税の確定申告をしている者で、本件係争各年分において次の<1>ないし<6>の全ての条件を満たす者であり、別表7記載のとおり各年分二名の該当者(A及びB。以下、「本件各同業者」という。)があった。

<1> すっぽん養殖業を営んでいる個人であること。

<2> 福岡国税局管内に事業所を有すること。

<3> 青色申告書を提出していること、または、青色申告書以外の申告書を提出しており、かつ、収支状況が明らかであること。

<4> 昭和六一年分の売上金額が概ね一〇〇〇万円以上四〇〇〇万円以下であること。

<5> 昭和五九年一月から同六一年一二月までの三年間を通じて<1>の事業を営んでいること。

なお、年の途中で、開業、廃業、休業したものを除く。

<6> 不服申立てまたは訴訟係属中でないこと。

本件各同業者は、業種、業態、事業所の所在地及び事業規模等において原告と類似性を有する。また、本件各同業者は青色申告者ではないが(右の抽出条件を満たす青色申告者は存在しなかった。)収支計算の内容を確認できた者であり、これに基づき算出された数額は正確である。そして、本件各同業者の選定は、被告が機械的に前記抽出条件を満たす者の全てを抽出する方法で行われたものであるから、その選定には恣意の介在する余地はない。したがって、本件各同業者の所得率の平均値には、正確性普遍性が担保されているから、これを用いて原告の本件係争各年分の事業所得金額を推計したことには合理性がある。

4  よって、被告がした本件各更正は原告の本件係争各年分の事業所得金額の範囲内であるからいずれも適法であり、これを前提として昭和六二年法律第九六号による改正前の国税通則法六五条一、二項に基づいてした本件各決定も適法である。

四  被告の主張に対する認否及び原告の主張

1  被告の主張1(別表4)のうち、各事業専従者控除額についてはいずれも争わない。その余は争う。

2  被告の主張2(収入金額)について

別表5のうち、今田に関する部分を除いて、その余は認める。

今田に対する売上金は、佐賀相互銀行佐賀東支店及び佐賀銀行水ケ江支店の原告名義の預金口座に振り込まれていた。

しかし、原告は今田に対する貸金についても銀行振込によって返済を受けていた。右貸金は、昭和五九年度から同六一年度にかけても年間一ないし二回、金額にして一回三〇万ないし五〇万円であった。

また、原告と今田との間には、食用亀(以下、「上丸」という。)の貸借取引があった。これは、上丸の大量注文を受け、手持ちの上丸が不足する際、相互に上丸を貸し付けるもので、その決済は商品で行うこともあったが、現金で行うこともあり、現金で決済を行う場合は上丸の仕入値で決済し、利益は全く出していなかった。原告と今田との間には稚亀以外の売買による取引はなく、上丸の取引は全て貸借取引であった。

したがって、原告が今田から銀行振込を受けた金額のうち、右の貸金の返済分と上丸の貸借取引分とは除外されるべきであり、本件係争各年分における今田に対する売上金額は、各年分一二〇万円であった。

3  被告の主張3(所得率)について

同(二)(推計の合理性)について争う。

原告の昭和六二年分の収入金額は一二二六万二二二〇円、仕入れ及び必要経費は、合計九六七万九六三五円、利益は二五八万二五八五円であり、利益率は二一・〇六パーセントであるところ、原告の経営体制は、昭和六二年度と昭和五九ないし六一年度と大きな変化がないのであるから、本件係争各年分につき被告が採用した所得率は明らかに合理性を欠く。

原告の所得率はせいぜい二〇パーセントとみるのが正しく、四〇パーセントを超える所得率を課すことは原告に廃業を求めるに等しい。

4  被告の主張4(本件各処分の適法性)は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(本件各処分等の経緯)は当事者間に争いがない。

二  原告の本件係争各年分の収入金額につきみるに、別表5(収入金額内容表)のうち、今田に関する部分を除き、当事者間に争いがない。原本の存在及び成立に争いがない乙第一号証、成立に争いのない乙第四号証の一、三、第五号証の一、二、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立の真正を認める乙第四号証の二、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、今田は、愛媛県北宇和郡においてすっぽん養殖業を営む者で、原告の旧来の取引先であること、今田に対する売上金の決済は銀行振込で行っており、これには佐賀相互銀行(平成元年四月一日付けで佐賀共栄銀行に名称変更。)佐賀東支店、佐賀銀行水ケ江支店及び西日本銀行佐賀支店の原告名義の各預金口座を使用していたこと、別表6記載のとおり、本件係争各年分において、今田から右各預金口座(佐賀銀行水ケ江支店を除く。)に振込入金されていること、以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。右各振込入金につき、原告は、今田に対する貸金の返済分や今田との上丸の貸借取引の清算分が含まれており、その金額が今田に対する売上金ではなく、今田に対する売上金は本件係争各年分につき各一二〇万円である旨主張するけれども、原告の本人尋問における供述によっても、右各振込入金を売上金とそれ以外のものとに区別することができないばかりか、今田との間の貸金契約や上丸の貸借取引の時期、内容等の客観的裏付けとなりうる証拠も見出し難いこと、加えて、原告は、今田に対する売上のうちには、現金決済によらず、すっぽんで弁済を受けた分や原告の今田に対する借入金と相殺した分がある旨供述しており、そうであれば、今田との取引額は、前記各貯金口座の入金状況から把握できる売上額を超える額となる可能性さえ窺えることからすれば、原告の右主張は到底採用できず、前記認定の各事実を総合すれは、別表6記載の各振込入金は、いずれも原告の今田に対する売上金と認めるのが相当である。

したがって、原告の今田に対する本件係争各年分の売上金額は、それそれ四〇三万円、四九七万円及び三四〇万円であり、前記争いのないその余の収入金額を総合すれば、原告の本件係争各年分の総収入金額は、それぞれ一四一八万五一六〇円、一五三二万九五七〇円及び一七九八万八〇四一円と認められる。

三1  次に、原告の本件係争各年分の事業所得金額につき検討するに、被告が本件各更正を行うに当たり右金額を推計の方法により算出したものであることは、弁論の全趣旨から明らかであるところ、右推計の必要性については、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

2  そこで、右推計内容の合理性につきみるに、成立に争いのない乙第二号証、弁論の全趣旨により成立の真正を認める乙第三号証の一ないし三に弁論の全趣旨を総合すれば、福岡国税局長は、平成元年九月二一日付けで佐賀税務署長に対し、本件係争各年分につき、所得税確定申告書を提出している者のうち、<1> すっぽん養殖業(業種番号〇-二五〇)を営んでいる個人であること、<2> 福岡国税局管内に事業所を有すること、<3> 青色申告書を提出していること、または青色申告書以外の申告書を提出しており、かつ収支状況が明らかであること、<4> 昭和六一年分の売上金額が概ね一〇〇〇万円以上四〇〇〇万円以下であること、<5> 昭和五九年一月から昭和六一年一二月までの三年間を通じて<1>の事業を営んでいること、なお、年の中途で、開業・廃業・休業したものを除く、<6> 不服申立てまたは訴訟係属中でないこと、以上の各要件を全て充足する者を調査対象として抽出し、収入金額、事業専従者控除前の所得金額、所得率及び兼業割合につき調査の上報告するよう通達したこと、これを受けて被告所部の係官が行った調査の結果は、別表7記載のとおりであったこと(なお、本件各同業者は、いずれも兼業していない。)、そして、被告は、右調査結果に基づき、本件各同業者の本件係争各年分における所得率の平均値(別表7記載のとおり)を求め、別表4記載のとおり原告の本件係争各年分の事業所得金額を算出したこと、以上の各事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

原告は、本件係争各年分の直後である昭和六二年分の原告の利益率は二一・〇六パーセントであり、昭和五九ないし六一年と同六二年との間で、原告の経営体制に大きな変化はないのであるから、本件係争各年分につき被告が用いた各所得率はいずれも高率に過ぎる旨主張し、その本人尋問においても、自分程度の営業規模であれば、利益率は二〇ないし二五パーセント程度である旨供述する。

確かに、甲第一九ないし二一号証には、これに副う記載部分があるけれども、売上金の計上もれがあったり、必要経費として計上されているものの中には、事業に必要な経費とは認め難いものや、現実に支出されたことの裏付けとなりうる原始帳票の伴わないものが含まれている等、原告の会計処理全体の正確性や信頼性が必ずしも担保されているとは言い難く、昭和五二年分の原告の真実の所得率を客観的に把握することは困難である。

また、甲第三四号証には、平成二年分につき、収入金額が一六一三万四五六五円、所得金額が三〇〇万八七五〇円である旨の記載がある(これによれば、平成二年分の所得率は一八・六五パーセントとなる。)が、成立に争いのない乙第八号証、第一二号証、第一四ないし一七号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一〇号証、弁論の全趣旨により成立の真正を認める乙第一一号証、第一三号証に弁論の全趣旨に総合すればこれらについても、昭和六二年分同様に、売上金の計上もれがあったり、必要経費として計上されているものの中に、事業に必要な経費とは認め難いものや、平成二年中に支出されたものではないもの、さらには、原告が現実に支出したことは認め難いものが含まれていることが認められ、平成二年分の原告の真実の所得率を客観的に把握することができないばかりでなく、成立に争いのない乙第七号証に弁論の全趣旨を総合すれば、平成二年分は、昭和六二年分との比較においてさえ、原価格合計額が約三倍増となっている一方で、経費合計額は約半減となっていることが認められ、その所得率が本件係争各年分の所得率とどの程度類似しているかも定かではない。

結局、原告主張の所得率が二〇パーセント程度であることを認めるに足りる証拠はないと言わざるを得ない。

他方、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、原告は兼業していないすっぽん養殖業者であることが認められるところ、前記認定の各事実からすれば、前記本件各同業者は、福岡国税局管内において、原告同様に兼業なしに歴年を通じてすっぽん養殖業を営む個人事業者であり、かつ、昭和六一年分において原告の前記収入金額(売上金額」の概ね二分の一から二倍までの範囲内にある者であるから、その業種、業態、事業場所、収入金額等の点において、原告と類似する同業者というべきであり、しかも、いずれも収支計算の内容を確認できた者であることからすれば、その資料の正確性も担保されているというべきである。さらに、前記認定のとおり、被告は機械的に本件各同業者を抽出しており、選定に恣意が介在する虞れは乏しい。また、確かに、同業者数が二者と少なくはあるが、右二者の各所得率に極端な相違はなく、その平均値は個々の業者の個別具体的な事情を捨象した客観性と普遍性を有するものと認められる。

したがって、被告が原告の本件係争各年分の所得を推計するために用いた前記所得率は、いずれも合理的なものということができる。

四  以上に加え、当事者間に争いがない本件係争各年分の事業専従者控除額(昭和五九年分は零円、同六〇及び六一年分は各四五万円。)に基づいて、原告の本件係争各年分の事業所得金額を算出すると、別表4記載のとおり、五九五万七七六七円、五〇六万八六四五円及び七八二四四九八円となる。

結局、本件各更正(ただし、昭和六〇年分及び同六一年分については、いずれも異議決定及び審査裁決により一部取り消された後のもの。)は、いずれも原告の事業所得金額の範囲内でされたものであり、右金額を過大に認定した違法はないというべきである。そして、本件各決定(ただし、昭和六〇年分及び同六一年分については、いずれも異議決定及び審査裁決により一部取り消された後のもの。)も、本件各更正を前提に、昭和六二年法律第九六号による改正前の国税通則法六五条一、二項に基づいてされたものであるから、原告主張の違法はない。

五  以上の次第であるから、原告の請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおりと判決する。

(裁判長裁判官 生田瑞穂 裁判官 岸和田羊一 裁判官 長渕健一)

別表1 昭和五九年分

<省略>

別表2 昭和六〇年分

<省略>

別表3 昭和六一年分

<省略>

別表4

<省略>

別表5 収入金額内訳表

<省略>

別表6 原告と今田との取引金額の内訳

<省略>

別表7 同業者所得率表

<省略>

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